タイニーハウスで大きく暮らす Living Big In A Tiny House

3年ぐらい前このユーチューブチャンネル(Living Big In A Tiny House )を見つけて以来、アップロードされたときには必ずチェックする映像のひとつになった。カメラワークから編集まで明らかに最初からプロっぽい出来である。

その後、雨後の筍のように出てきた同種のタイニーハウスを紹介するたくさんの番組の中で、この番組がいまもナンバーワンの位置づけを保っているのは、この番組が草分けというだけでなく、ビジネス一辺倒にならない番組(タイニーハウス のフォーミュラを提供している事業の宣伝を意図した番組もある)のコンセプトと、それを体現したミュージシャンでもあるMC役のブライス・ラングストンの魅力によるところが大きい。さすがに彼も少し年をとった感じになったが、This tiny house is really incredibleというような大げさな絶賛口調とともに、今やこの番組には欠かせないキャラクターとなっている

このタイニーハウスについて、若干成り立ちを説明しておきたい。タイニーハウス・ムーブメントは20年以上前に、アイオワの美術学校の臨時教員ジェイ・シェーファーによって始められた。以来、車のシャーシの上に小さな家を建てるアイデアと彼の家づくりの哲学(「小さい居住空間は良いセンスを育む」「小さなスペースでいかに優れたデザインを生み出すか」)は、世界中に広がった。この番組もこの彼の巻き起こしたブームの中で始まった。2018年11月には、ミニマリズムの極地のような低予算(5000ドル)のタイニーハウスとともに、彼自身、この番組にも登場している。

タイニーハウス『ムーブメント』がアメリカを中心に大きく広がった社会背景には、アメリカの貧困化と言う問題がある。ベビーブーマーと呼ばれる世代までは、上り調子の経済を背景に、プール付きの大きな家を建てるのがアメリカ人の一般的な夢だった。金融機関も低い所得層まで対象に高金利の住宅ローンを用意し資金を提供し、夢の後押しをした。貸し手には返済不能に陥っても、担保にとった住宅を転売することで債権を回収する目論見があった。

しかし、長らく続いた住宅バブルも崩壊する。一気に滞納額が増加し、それに伴い差し押さえ件数も急増した。これは、サブプライム問題として金融機関を危機に陥れ(いわゆるリーマン・ショック)、世界経済にまで影響を及ぼすことになったのは周知の通りであろう。

この親世代の窮状を見て育ったのがベビーブーマーの子供世代(ミレニアル世代)である。この番組で登場するのもほとんどがこの世代。親の過ちを再び冒したくないという思いを背景に、日本の就職氷河期世代と同じく不況時代に育った子供達の住まいに対する意識変化がこのムーブメントが広がる要因となっている。

これまでの家づくりは、後の長い人生に借金という桎梏と不自由さを負わせる結果になった。それに対してタイニーハウスムーブメントには、家づくりを人々の手に取り戻し、自由な生き方を得るためのツールとするための提案が込められている。

タイニーハウスは小さいゆえのローコストというだけでなく、アメリカでは車両とみなされ税制上のメリットが得られる。太陽光パネル搭載のoff-grid仕様により必要最低限の電力を自前で確保し、若者にとっては絶対欠かせないインターネットとの接続や、電化製品による便利な暮らしを諦めずに、都市を離れ広大なアメリカ大陸をあちこち移動し、豊かな自然とのふれあいを享受できる夢を抱かせたことも、人気を加速した要因であろう。

大自然の中での生活は、眠っていたアメリカ人の原点=開拓者精神、個人をベースにした自立精神を呼び覚ます。各地にタイニーハウスビレッジ(リーガルタイニーハウスパーキング)ができているが、その集合風景を見ると、まるで現代に幌馬車隊の西部開拓時代が蘇ったかのように見える。

お仕着せや出来合いを嫌い、どこまでDIYでやれるかも、タイニーハウスの重要な評価の基準になっている。それぞれこの狭いスペースをどう使うか、収納を極限まで工夫し、デザインや天然素材に凝って、ユニークさや個性的な美を競っている様子は、我々にも参考になるし、毎回見飽きさせない。これから今まで見たLiving Big In A Tiny House の映像を中心に、記憶に残るものに絞って紹介して行くのでお楽しみに。

 


上は、後発のタイニーハウス関連の番組。タイニーハウスビレッジの現況が分かる。